20210530

久しぶりに東京に出掛けたら、穂村弘みたいな人を見かけた。直観だった。ぼくは穂村弘の作品をほとんど読んだことがないし、顔もそれほど見たことがないのだけれど、見えない電気信号がびりびりと伝わってきて、あれは穂村弘だと言っている。自分でもよくわからない。現実と虚構の区別がついていないのかもしれない。

作家だってただの人に違いないけれど、その人が纏う空気感はある。見た瞬間、ぼくは少し気圧された。負けたな、と思った。何に対する勝ち負けかはわからないし、勝ち負けなんかにこだわりはなかったけれど、完全に負けた。あの頭の中には、ぼくの想像すら及ばない世界が存在していることが分かった。それは歩き方として、目線の使い方として分かった。本だったらきっとフィクションでしかなかったのに、穂村弘という人間が現実としてそこにいることを、今知ってしまった。

ぼくが穂村弘の作品を読んだことがないのは、あそこに書いてある言葉がまったく頭に引っ掛からないし、分からないからだった。だけど、わけわからない言葉がちゃんと生の肉体に紐付いて発せられていることをその人を見てしまったら考えざるをえない。知りたいなと思った。なので、シンジゲート、買いました。今日の穂村弘は、わけわからんものの象徴として出てきたのかも知れず、あれが本当に本人かどうかなんてどうでもよかった。ただ、わけわからんものがまだまだたくさんあるのだなって知った日。